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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)287号 判決 1957年12月27日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡田嘉寿彦の上告理由第一点について。

論旨は、原判決は憲法第三二条に違反するというがその実質は単なる訴訟法違反の主張を出でないばかりでなく、原判決には所論のような理由不備又は判断遺脱の違法はない。即ち原判決は、所論の点につき、本件物件(二馬力モーター付二機筒水圧ポンプ)が工場抵当の目的物中に含まれていた事実は認められるが、工場抵当法三条一項の抵当物件目録に記載されなかつたため、その抵当権を第三者に対抗できず、したがつて、また抵当権実行のための競売手続においてこれを競落した上告人は、本件物件の所有権の取得をその買受人である被上告人に対抗出来ない旨詳細に判示しているので、その理由に欠くるところはない。論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、原判決が一方において本件物件に抵当権の効力が及ぶことを認めながら、他方においてその効力を被上告人に対抗し得ないと判示したのは、矛盾であつて工場抵当法二条に違反すると主張する。

しかし、工場の土地建物につき抵当権設定登記をなすに当つては、その土地又は建物に備附けた機絨器具其の他工場の用に供する物にして抵当権の目的となるものの目録を提出するを要し、(工場抵当法三条一項)その目録は抵当権設定登記により登記簿の一部と看做され、その記載は登記と看做されるのであるから(同法三条二項、三五条)前記機械器具等についての抵当権は右目録に記載された場合にのみ抵当権の効力を第三者に対抗し得るのである。然るに本件において訴外会社は、その抵当権設定の登記申請に当り前記法三条の目録を提出したが、同目録中に本件物件の記載されなかつたことは原判決の認定するところであり、又原審が同目録末尾に「以上建物内に在る機械器具其他工具一切」なる記載はあるが、本件物件は右末尾記載にも含まれないものと判断したのはもとより正当である。けだし目録には軽徴なる附属物に限り概括して記載することを得るも(工場抵当登記取扱手続二六条、九条三項)機械器具類は具体的に記載するを要するものと解すべきであつて、本件機械の如きは、これを軽微な附属物というを得ないからである。されば本件物件は右目録に記載なきため抵当権設定登記の効力がこれに及ばず、その対抗力がないとの原判決の判断は結局正当であつて、論旨は理由がない。

同第三点について。

第二点に述べたとおり、本件物件は、抵当権設定登記中に含まれていないものであるから、昭和二七年三月為された競売申立記入の登記も本件物件以外の土地、建物機械器具類等の登記簿につきなされたものであつて、本件物件につき該申立記入の登記があつたとはいえない。従つて本件競売開始決定及び競売申立記入の登記の後本件物件を所有者から買受け引渡を受けた被上告会社は、差押の効力を以て対抗されることなく、有効にその所有権を取得し引渡を受けたことになるのである。しかも、不動産競売開始決定に基く差押により、本件物件の占有が執行吏に移るものと解すべきではなく、その他被上告人が右物件の引渡を受けた後に執行吏がその占有をなすに至つたことは、原審の認定しないところであるから、競落許可決定に基き執行吏から占有の移転を受けて右物件の所有権を即時取得したとの所論は、その前提を欠くことに帰し、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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